薬剤師の退職金の平均相場は?薬局・病院など職場によって違う?

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序文

薬剤師は、どのくらい退職金をもらえるのか?転職を検討している薬剤師の中には、退職金の金額について気になっている人も多いはず。退職金は転職の準備資金にもなりますし、具体的な金額を知ることができれば今後の生活のシミュレーションもしやすくなるでしょう。ここでは、薬剤師の退職金の平均相場や算出方法についてお伝えします。

そもそも退職金とは?

退職金とは、転職や離職・定年に際して勤務先の企業から支払われる賃金のことです。退職金には、大きく「退職一時金制度」と「企業年金制度」の支給方法があります。「退職一時金制度」は、退職時に一括で退職金が支給される制度のこと。それに対し「企業年金制度」とは、一定期間にわたって退職金が支給される制度で①厚生年金基金 ②確定給付企業年金 ③企業型確定拠出年金があります。企業側からするとそれぞれの支給制度にはメリット・デメリットがあるので、職場ごとに採用している支給方法が違ってきます。また退職金は法律で義務づけられているものではないので、勤務先によっては退職金が支給されないことがあるということにも注意が必要です。

退職金の金額を決める要素について

病院や薬局に退職金制度があるからといって、すべての薬剤師に退職金が支給されるわけではありません。そこで、まずは退職金の支給条件や金額を決める要素について説明します。

①規定の勤務年数がない場合は支給されない

退職金の支給を受けるには、勤務先が決めた勤務年数が必要です。一般的に薬剤師が勤務する医療機関や薬局・製薬会社では、勤続年数3~5年以上の職員を対象に退職金が支給される場合が多いです。以下は、厚生労働省の「就労条件総合調査」で報告されている退職金の受給に必要な最低勤続年数の平均になります。

退職勤続年数
1年未満1年以上
2年未満
2年以上
3年未満
3年以上
4年未満
4年以上
5年未満
5年以上
会社都合8.521.88.742.21.19.3
自己都合3.215.09.756.21.610.9

(%)

表を見てわかる通り、一般企業を含めても3年以上の勤続年数がなければ退職金の支給を受けられない職場が半数を占めています。このことからも勤務先の規定を確認し、退職金を受給するために必要な勤続年数を知ることが重要です。

②自己都合と会社都合では退職金の支給額が違う

退職金は、退職事由によっても変わってきます。退職事由には、自己都合退職と会社都合退職があります。自己都合退職とは、転職・結婚・介護・病気療養などの個人的な理由で退職をすることです。それに対し会社都合退職とは、会社の倒産やリストラ・退職勧奨などの理由で退職することを言います。薬剤師の場合には自己都合で退職する方が多いですが、会社都合のほうが退職金額は大きくなります。ちなみに、定年退職は会社都合退職です。またテレビの報道でも見かけるようになった早期退職制度は、会社側の理由で退職者を募集する制度になるので、こちらも会社都合として退職金額が割り増しで支給されます。

③退職金額はキャリアで変わる

退職金は、キャリアでも支給額が変わってきます。病院や薬局では、基本的に勤務年数が長くなるほど退職金額が増える傾向にあります。というのも、次のような計算式で退職金を算出している病院や薬局が多いからです。

・退職時の給与×○○ヶ月分

このような式で退職金を計算している職場では、勤続年数が長く、基本給が高い職員ほど退職金が高くなるのです。また一般職に比べると、何らかの役職がついている職員のほうが退職金額はアップします。役職がついているということは仕事を通じて会社への貢献度が高いと評価されるので、一般職よりも退職金が割り増しされることがほとんどです。他にも、職場によっては業務上の功績から退職金額を加算する場合もあります。

転職や定年での薬剤師の退職金の平均相場は?

では、薬剤師にはどのくらい退職金が支給されているのでしょうか?ここからは、薬剤師の退職金の平均相場についてお伝えしていきます。まず、薬剤師全体の退職金の平均相場は勤続5年で約50万円、勤続30年で約500万円と言われます。もちろん個人の業務実績や退職事由によっても金額は変わってきますから、平均相場は退職金の目安として捉えておくのが良いでしょう。また、一般的には病院や薬局・製薬会社の企業規模が大きくなるほど退職金額が増える傾向にあります。なぜなら中小企業に比べると大手の企業のほうが福利厚生の整備に力を入れているので、退職金も多く支給できるからです。ただし、勤務先の規模に関わらず正社員以外の雇用形態で働いている場合には注意が必要です。パートやアルバイト・派遣社員として働く薬剤師の方は多いですが、正社員以外の職員に退職金を支給する企業は多くありません。特に労働日数や労働時間を減らして短時間勤務をしている薬剤師は、退職金の支給対象ではない可能性が高いです。短時間勤務をしている薬剤師の場合には、まずは自分の雇用形態が退職金の支給対象になっているかどうかも確認するようにしましょう。

調剤薬局・病院(大学病院・公務員・民間病院)などの職場別の退職金

勤務先が違うと退職金の支給額も異なると説明しました。次に、職場別に薬剤師が受給する退職金の平均相場について紹介します。

①調剤薬局・ドラッグストア・製薬会社

調剤薬局やドラッグストア・製薬会社では、一般企業と同じくらいの退職金を受給することができます。これらの職場は株式会社や有限会社が運営しているので、一般企業と同水準の福利厚生を整えています。では、一般企業の退職金の平均相場はどのくらいかというと、以下の表で確認してみましょう。表は、東京都産業労働局が調査・集計した中小企業の退職金事情(平成30年版)です。

大学卒業後、中小企業に入社し普通の能力と成績で勤務した場合の退職金水準

勤続年数年齢自己都合退職会社都合退職
支給金額(円)支給月数支給金額(円)支給月数
10321,215,0004.41,574,0005.7
15372,298,0007.42,836,0009.1
20423,733,00010.74,358,00012.5
25475,697,00014.86,363,00016.5
30527,852,00018.78,523,00020.3
定年12,034,00028.0

一般企業では、勤続年数が長くなるにつれて退職金の支給額が増えていく傾向にあります。つまり調剤薬局やドラッグストア・製薬会社の場合には、同じ職場に長く勤務している薬剤師ほど退職金を多く受給できるのです。ただし正社員で勤務する薬剤師の多くは、一般企業のサラリーマンよりも基本給(月収額)が高いです。ですから、人によっては中小企業の退職金水準を大きく上まわるということも。また調剤薬局やドラッグストアに勤務しているパート・アルバイト・派遣薬剤師の方も、職場によっては退職金を受給できる可能性あるかもしれません。なかでもフルタイムで勤務する人は、就業形態が正社員でなくても退職金の支給対象になっていることもあるので、受給できるかどうか人事・総務に確認してみるのも大切です。

②公務員

公務員の薬剤師の退職金は、「国立病院機構」と「国公立病院」の2種類に分類されます。

1)国立病院機構

国立病院機構に勤務する薬剤師は国家公務員です。そのため、退職金も国家公務員の規定に基づいて支給されます。国家公務員の退職金受給額を勤続年数別に分類すると、以下のようになります。

勤続年数平均支給額(円)
5年未満795,000
5~9年1,467,000
10~14年3,209,000
15~19年6,277,000
20~24年10,778,000
25~29年16,298,000
30~34年20,755,000
35~39年23,785,000
40年以上22,618,000
(引用:内閣官房 退職手当の支給状況(平成30年))

2)国公立病院

国公立病院に勤務する薬剤師は地方公務員にあたるため、退職金は地方公務員の規定に基づいて支給されます。平成29年に総務省がおこなった「地方公務員給与実態調査」によると、地方公務員(一般行政職員)の退職金額(定年)は約2,000万円となっています。公務員は、勤務年数が長くするにつれて退職金額が順調に増えていくことが特徴です。大手の製薬会社を除くと、退職金の受給額がもっとも高くなるのも公務員薬剤師です。また国立病院機構や国公立病院でも役職がついている薬剤師は退職金額が割り増しされるので、一般職員よりも多くの退職金が期待できるでしょう。

③病院

大学病院や民間病院では医療機関ごとに独自の規定を作っているので、勤務先によって退職金の受給額が変わってきます。それぞれどのくらいの退職金が支給されているのか、順に見ていきましょう。

1)大学病院(私立)

大学病院に勤務する薬剤師の平均的な退職金支給額は、定年まで勤めると1000万円以上と言われています。大学病院でも勤続年数が長かったり、役職がついていたりする薬剤師の場合には退職金が多くなります。ほとんどの大学病院では、勤続3年以上から退職金を受給できるのも特徴です。例えば、大学を卒業して大学病院に3年間勤務した薬剤師では、退職金の相場は25~50万円程度です。調剤薬局やドラッグストア・製薬会社には5年以上勤務しなければ退職金が支給されない職場が多いことも踏まえると、大学病院は若手薬剤師にとっても退職金が受給しやすい職場と言えるでしょう。また、私立大学病院は運営母体が学校法人などであることから経営が安定しています。ですから経営悪化に伴う賃金の変動が少ないので、安定して一定額の退職金が支給されやすいのもポイントです。

2)民間病院

大学病院や国公立病院を除く民間病院では、薬剤師の退職金支給額の平均は700~800万円と言われます。ただし民間病院の場合は、企業規模や経営状態によって退職金額が大きく変わってきます。企業規模が小さく、経営状態が悪い病院では、薬剤師の退職金は35年勤務しても100万円を下回ることも。一方で企業規模が大きく、経営状態が良い病院であれば1,000万円を超える退職金を受給できる場合もあります。また、大学病院や国公立病院とは違い、民間病院ではそもそも退職金制度を設けていないというところもありますが、こうなるとどんなに勤務年数が長くなっても退職金を受給することはできません。このように、民間病院に勤務する薬剤師の退職金額は様々です。

大手企業の薬剤師の退職金事例

大手企業になるほど、薬剤師も退職金の受給額が高くなる傾向にあります。というのも中小企業よりも、大手のほうが福利厚生の制度を手厚く整えているからです。退職金制度は、会社の福利厚生に含まれます。ですから福利厚生に力を入れている企業ほど、退職金額も多くなるのです。では大手企業ではどのくらいの退職金を受給できるのかというと、企業規模が1,000人以上の職場では次のような賃金が退職時に支給されています。

大学・大学院を卒業した管理・事務・技術職の平均退職給付額

勤続年数企業規模1,000人以上
20~24年1,2960,000円
25~29年2,1660,000円
30~34年2,7290,000円
35年以上2,6730,000円
中小企業の退職金の平均は約1,200万円であったので、それに比べると大手企業では2倍以上の退職金を受給していることがわかります。例えばある大手ドラッグストア に正社員の薬剤師として定年まで勤務した場合には、退職金の受給額が3,000万円を上回ったケースも。大手のドラッグストアは店舗数も多く、自社グループの業績によっては充実した退職金を受給することができるのでしょう。逆に言うと、大手であっても業績不振の企業では退職金額が大幅に下がってしまう可能性があることには注意をしなければなりません。また、最近では退職金制度を見直す大手企業が増えてきています。これまでの退職金はというと、「退職一時金制度」によって定年時に一括で支給されることがほとんどでした。しかしながら「退職一時金制度」は、企業側からすると一時的に多額の賃金を支払う必要があり、資金繰りや事務手続きなどの負担が大きかったのです。そこで、「退職一時金制度」に変わって「企業年金制度」を導入する企業も増えてきました。これにより企業側からすると退職金額の積み立て不足の心配がなくなり、給付手続きも簡便になりました。退職金制度が変わると退職金額や支給方法なども違ってくるので、大手企業に勤務する薬剤師は自社がどのような制度を採用しているか確認しておくことも大切です。

以上のように薬剤師の退職金と一口に言っても、勤務先によってさまざまです。退職金は、転職時や定年後の生活を支える重要な資金源になります。受給額が多いことももちろんですが、具体的な金額を知ることができたほうが今後の生活プランを立てやすくなるでしょう。ですから、職場別の平均的支給額も参考にしながら自分の退職金額をシミュレーションしてみましょう。

退職金の算出方法

退職金の算出方法は、勤務先によって変わってきます。主な退職金の算出方法には、次のようなものがあります。

①基本給連動型

基本給連動型は、退職時の基本給や勤続年数・退職事由によって退職金を算出する方法です。こちらは基本給をもとに退職金が計算されるので、月収額が高い人ほど退職金額もアップしていきます。ここで言う退職事由とは「自己都合」または「会社都合」退職のことで、企業ごとに設定された係数によって退職金が計算されます。基本給連動型の算出方法を計算式にすると、以下のようです。

退職金=退職時の基本給×支給率(勤続年数によって変動)×退職事由

例えば月収30万円で勤続年数10年の職員の支給率が8.0、自己都合退職の係数を0.8に設定している調剤薬局では、「30万円×8×0.8=192万円(退職金)」になります。このように基本給連動型は基本給が多く、勤続年数が長くなるほど退職金がアップするのが特徴です。

②定額制

定額制は、会社が勤務年数ごとに決めた支給額に基づき退職金を給付する方法です。こちらは退職金の支給額が勤務年数と退職事由(自己都合または会社都合)によって決まってくるのがポイントです。定額制では、一般的に勤務年数が長くなるほど退職金の支給額が多くなります。定額制は仕事の貢献度が金額に反映されないので、在職中にどれだけ会社に貢献する仕事をおこなっても退職金額が変動しません。そのため在職中に業績をあげる努力をしてきた職員からすると、退職金が思ったほど受給されないというデメリットあります。逆に言うと、定額制は誰もが同じ条件で退職金を受給できるわかりやすい制度であるため、職員間で不公平さを感じにくいといったことがメリットになることも。

③ポイント制

ポイント制は、職場が決めた条件によって在職中の職員にポイントを付与し、そのポイントから退職金を算出する方法です。ポイント制は、仕事で会社に貢献した職員ほど多くの退職金を受給できるのが特徴です。従来、多くの企業が導入していた「基本給連動型」や「定額制」の支給方法では、会社への貢献度に関わらず一定の退職金が支給されていたので、適切な業務評価に見合わない賃金を職員に支給できてしまうというデメリットがありました。そこで、最近ではポイント制の退職金制度を導入することで業務評価に基づいた賃金の支給をおこなう企業が増えてきたのです。ちなみに業務評価となるポイントには、職員個人の業績や人事評価・資格等級などが参考にされる場合が多いです。

自分の退職金を確認するには?

では、自分の退職金を確認するにはどのようにすれば良いのでしょうか?最後に、具体的な退職金の確認方法について紹介します。

①就業規則を確認する

就業規則には、勤務先のさまざまな決まりが掲載されています。退職金制度もそのひとつです。就業規則を開いてみると、勤務先の退職金制度について知ることができるでしょう。勤務先によっては、退職金の支給方法が掲載されている場合もあります。例えば「基本給連動型」や「定額制」の支給方法を採用している職場では、勤務年数に応じて給付額が決まってくることがほとんどであるため、就業規則にも掲載することもできるのです。ただし就業規則は職員の同意があれば変更することができるので、勤務先の退職金制度が入職時とは違っている場合があることには注意が必要です。特に、業績が下降している企業では退職金制度も見直されていることも。就業規則は誰でも見ることができるので、一度確認してみると良いでしょう。

②労務担当者に聞く

自分の退職金を確認するもっとも簡単で確実な方法は、労務担当者に直接聞いてみることです。労務とは、職員の勤怠や給与・社会保険の手続きなどの管理をしている事務のことです。会社によっては、総務課・人事課などが労務を担当していることもあるかもしれません。いずれにしても職員の賃金の管理をおこなっている労務担当者に聞けば、自分の退職金額について確認することができるでしょう。ただし、そうは言ってもほかの職員には退職金について質問しづらいものです。退職金について聞くことで、退職をほのめかしたり焦ったりしているように思われると会社からの印象も悪くなるかもしれません。そのような場合には、同じ職場を退職した先輩や同僚に退職金の支給額を聞いてみるのもひとつの方法です。

③定期通知で確認する

退職金の支給方法が「企業型確定拠出年金」の場合には、定期通知で確認することができます。企業型確定拠出年金では、年に一度、加入状況を知らせる定期通知が届きます。この定期通知を見ると、年金資産額(退職金)や管理手数料などを確認することができるのです。また企業型確定拠出年金では、加入者用のウェブサイトからいつでも年金資産額をチェックすることができます。なお年金資産額を確認するためには、加入者口座番号とインターネットパスワードが必要です。

まとめ

薬剤師の退職金について、支給方法や職場別の受給額を説明しました。退職金は転職や定年後の生活プランを左右する資産になりますから、なるべく具体的な支給額を把握しておきたいものです。薬剤師の場合、勤務先によって退職金の支給額は大きく変わってきます。特に民間企業では会社の業績によって支給額が変動することにも注意しておきましょう。多くの職場では、具体的な退職金額は就業規則や労務担当者に聞くことで確認することができます。退職後の生活をシミュレーションするためには、退職金の受給額や支給方法について会社側に確認しておくと良いでしょう。

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