薬剤師の今後の需要は?将来性のある薬剤師になるには
目次
序文
近年、薬剤師の人数は供給過多とも言われています。薬剤師のなかには、職種の将来性について気になる方もいらっしゃるでしょう。たとえ専門職であっても、社会の需要がなければ安定して働くことはできません。病院や薬局では、薬剤師の業務をAIで代替する職場も散見されます。将来的にも必要とされる薬剤師でいるには、どのようなスキルが必要なのでしょうか?ここでは、薬剤師の将来性を説明しながら、今後必要とされるスキルについてお伝えしていきたいと思います。
近年の薬剤師の需要と供給
まずは、直近10年の薬剤師の人数と薬剤師免許の有資格者数の増加について見てみましょう。
①薬剤師の人数
薬剤師の人数は、毎年約1万人ずつ増加しています。以下の表は、厚生労働省が2年ごとに発表している「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」から薬剤師の人数と人口10万人あたりの薬剤師数を抜粋したものです。
薬剤師の人数(人) | 人口10万人あたりの薬剤師の人数(人) | |
平成30年 | 311,289 | 246.2 |
平成28年 | 301,323 | 237.4 |
平成26年 | 288,151 | 226.7 |
平成24年 | 280,052 | 219.6 |
平成22年 | 276,517 | 215.9 |
平成30年時点で、全国の薬剤師の人数は31万人を超えています。これは人口10万人あたりに換算すると約246人となり、都道府県によっては薬剤師の供給過多の状況となっています。
②薬剤師の合格者数
薬剤師の人数が順調に増えている主な理由は、国家試験の合格者数と合格率に大きな変動がないからです。直近10年の薬剤師国家試験の合格者数・合格率を見てみると、合格率は70%前後、毎年1万人ずつ有資格者数が増えていることがわかります。
国家試験 | 合格者数(人) | 合格率(%) |
令和2年 (第105回) | 9,958 | 69.58 |
平成31年(第104回) | 10,194 | 70.91 |
平成30年(第103回) | 9,584 | 70.58 |
平成29年(第102回) | 9,479 | 71.58 |
平成28年(第101回) | 11,488 | 76.85 |
平成26年(第100回) | 9,044 | 63.17 |
平成25年(第99回) | 7,312 | 60.84 |
平成24年(第98回) | 8,929 | 79.10 |
平成23年(第97回) | 8,641 | 88.31 |
平成22年(第96回) | 1,455 | 44.44 |
このように薬剤師免許の有資格者数が年々増えているので、地域によっては薬剤師の飽和状態が起こっているのです。
では薬剤師の供給が増えすぎるとどのようなところに問題が出てくるかというと、ひとつは専門職であっても働き口が減ってしまうことにあります。例えば、薬剤師として転職を検討した場合にも、有資格者数が多い地域で求人の倍率が高くなり、採用面接を受けても不合格になってしまう可能性が高くなるのです。実際に、数年前に比べると薬剤師の新規求人倍率は下降しています。
年 | 新規求人倍率 |
令和2年 | 4.84 |
令和元年 | 7.06 |
平成30年 | 6.07 |
平成29年 | 10.87 |
平成29年には、薬剤師ひとりにつき10社程度の求人件数があったものが、令和2年にはその半数の約5社まで減少しています。そのため、職場の経営状態によっては薬剤師が人員削減の対象になってしまうということもあるかもしれません。つまり、このまま薬剤師の人数が増え続けると、専門資格を所持していても自由に勤務先を選びづらくなったり、薬剤師であってもリストラされたりする可能性が現実のものになってきているのです。
薬剤師は地方での需要が高い?
大都市圏に比べると、地方は薬剤師の需要が高いです。というのも、地方には薬剤師の人数が不足している地域が多いからです。人口10万人あたりの薬剤師の人数を地域別で比べてみると、以下のようになります。
地域 | 人口10万人あたりの薬剤師の人数(人) |
全国平均 | 190.1 |
東京都 | 226.3 |
兵庫県 | 223.2 |
青森県 | 153.0 |
福井県 | 152.2 |
沖縄県 | 139.4 |
都道府県別に比べると、東京都や兵庫県では人口10万人あたりの薬剤師の人数が多いです。これらの地域には、薬学部を備えた大学が数多くあります。東京都は11箇所、兵庫県には5箇所の大学があり、薬学系大学の数では全国でも上位にランクインしています。一方で、人口10万人あたりの薬剤師の人数が少ない青森県・福井県・沖縄県は3県あわせても薬学系大学が一箇所しかありません。つまり、地方出身の薬剤師は、都市部の大学を卒業するとそのまま同じ地域で就職する傾向にあるため、地方では薬剤師の人数が不足しがちになると考えられます。薬剤師の需要が高い地方では、好条件の求人情報が多いのもポイントです。都市部に比べると、地方の薬剤師の求人情報には主に3つの特徴があります。
①給与が高い
病院や薬局に関わらず、地方の薬剤師は給与条件の良い求人情報が多いです。これは、給与の支給額を多く提示することで薬剤師を採用したいと考える事業所が多いからです。
②各種手当が充実している
都市部から地方に引っ越すには経済的な負担がつきものです。そこで、地方の病院や薬局には各種手当を手厚く整えている職場もよくあります。例えば「地域手当」「赴任手当」などを備えて、薬剤師の給与アップを図っている職場も多いのが特徴です。
③福利厚生が整備されている
薬剤師が働きやすいように、地方の病院や薬局では福利厚生にも力を入れています。有給休暇はもちろん、なかには「誕生日休暇」や「リフレッシュ休暇」などのめずらしい福利厚生を備えた事業所もあります。
このように、地方には薬剤師が働きやすいように好条件を提示している求人情報が数多くあります。ですから、今後の薬剤師の需要を心配されている方は、地方で働くことも検討してみてはいかがでしょうか。
職場別の薬剤師の将来性
今後の薬剤師の需要は、職場ごとによっても変わってきます。薬剤師が勤務する代表的な職場には調剤薬局・ドラッグストア・病院・製薬会社の4つがありますが、ここからはそれぞれの職場ごとに薬剤師の将来性について紹介していきたいと思います。
① 調剤薬局
調剤薬局は薬剤師の人数が充足してきているため、今後の薬剤師の需要が少なくなる傾向がある職場のひとつです。調剤薬局は全国的に店舗数が減少する一方で、調剤薬局に勤務する薬剤師は依然として多い状況です。平成30年時点で、全国の薬剤師は311,289人おり、半数以上の薬剤師の方が薬局に勤務していることが報告されています。
勤務先 | 薬剤師の人数(人) | 構成比(%) |
薬局 | 180,415 | 58.0 |
医療機関(病院・診療所) | 59,956 | 19.3 |
介護保健施設 | 832 | 0.3 |
大学 | 5,263 | 1.7 |
医薬品関係企業 | 41,303 | 13.3 |
衛生行政機関 または保健衛生施設 | 6,661 | 2.1 |
その他 | 16,856 | 5.4 |
このように多くの薬剤師が薬局に勤務しているため、地域によっては調剤薬局における薬剤師の需要が減少する傾向にあるのです。また平成31年4月には、薬剤師以外の職員がピッキングや一包化などの調剤補助業務をおこなえる「(ファーマシー)テクニシャン制度」が導入できるようになりました。これにより、薬局によっては薬剤師の業務が削減され専門職の需要減少に拍車がかかっています。「テクニシャン制度」の導入が進んでいくと、将来的には薬局の薬剤師の配置基準なども見直されていく可能性もあるでしょう。
② ドラッグストア
ドラッグストアでは、薬剤師の需要が増えていくことが予想されています。というのも、最近では調剤併設型ドラッグストアが増加してきているからです。調剤併設型ドラッグストアとは、医師から出された処方箋を取り扱う「調剤薬局」と、OTC医薬品などの商品を揃える「ドラッグストア」の機能をあわせもった施設のことを指します。調剤薬局併設型ドラッグストアは、通常の調剤薬局よりも営業時間が長いです。また、調剤やOTC医薬品の販売が必要になることから薬剤師の存在が欠かせません。このようなことから、調剤薬局併設型ドラッグストアでは積極的に薬剤師の採用をおこなっている職場が多いです。最近のドラッグストアは、医薬品のほかにも食品や加工品などの商品を販売しているのも特徴です。そのため、スーパーやコンビニエンスストアと同じようなショッピングスポットとして消費者からの需要が高く、店舗数や売上高が年々増加しています。もちろん、ドラッグストアで働く薬剤師には顧客対応業務も多いので、医薬品を取り扱う以外の業務も増えるでしょう。しかしながら、業績や需要が安定していることを踏まえると、調剤薬局併設型ドラッグストアは今後薬剤師が働きやすい職場になっていくと考えられるでしょう。
③病院
病院でも、薬剤師の需要は高まる傾向です。令和2年度の診療報酬改定では「病棟薬剤業務加算」が、次のように上方修正されました。
・病棟薬剤業務実施加算1(週1回) 100点→120点・病棟薬剤業務実施加算2(1日につき)80点→100点
「病棟薬剤業務加算」が上方修正されたということは、病院の経営側からしても薬剤師の体制を充実させるほど売り上げアップが期待できる状況になったということです。つまり、今後も薬剤師の配置を強化する病院が増えていくことが予想されます。実際、平成24年に「病棟薬剤業務実施加算」が新設されて以降、医療機関に勤務する薬剤師の割合は多くなっています。
薬剤師の構成割合(医療機関)
平成30年 | 19.3% |
平成28年 | 19.3% |
平成26年 | 19.0% |
平成24年 | 18.8% |
平成22年 | 18.8% |
病棟における患者さんのサポート体制を手厚くしながら、病院の売り上げを伸ばそうとする動きが広まれば、病院薬剤師の需要はますます増えていくことでしょう。
④ 製薬会社
製薬会社に勤務する薬剤師の需要は減っています。薬剤師の需要が減っている主な原因は、後発医薬品の使用が増えてきたことにより新薬の開発・販売がしづらい状況になってきているからです。製薬会社に勤務する薬剤師の代表的な業種にはMR(営業担当者)がありますが、2019年の「MR白書」によると、新卒・中途採用をおこなわなかった企業も多く見られます。
MR雇用規模別 | 新卒採用なし企業割合(%) | 中途採用なし企業割合(%) |
全体 | 57.1 | 36.5 |
99名以下 | 81.8 | 49.1 |
100~299名 | 46.2 | 15.4 |
300~499名 | 27.3 | 36.4 |
500~999名 | 15.4 | 26.9 |
1,000名以上 | 5.9 | 17.6 |
表を見てわかるように、規模が小さくなるほどMRの採用をしなかった企業が増えている傾向です。これまで、製薬会社のMRは病院や薬局に比べると給与水準が高く薬剤師に人気の業種でした。しかしながら、国の政策として後発医薬品の使用が促進されると製薬会社の従事者数も少なくなり、薬剤師の需要も減っていきました。近年では、製薬会社のMRから医療機関などに転職する薬剤師も散見されています。
今後の薬剤師の需要はAIに左右される?仕事が奪われるって本当?
医療機関や薬局では、薬剤師業務に人工知能(以下AI)が導入されるケースも増えてきました。AIは次の3つの作業を得意としています。
・単純作業
・正確で素早いデータ処理
・物事の共通点を見つける
このようなAIの特徴を活かし、薬剤師業務の効率化が図れるようになってきているのです。例えば、ピッキングや一包化などの調剤業務はAIの得意とする単純作業であり、機械やロボットを導入して調剤業務を担う実験をおこなう企業もあらわれています。ですから、AIに仕事を奪われるのではないかと心配をしている薬剤師も多いでしょう。一方で、AIには上記に挙げた得意分野とは反対に苦手な分野があります。それは「相手の気持ちをくみ取り自分の判断で行動すること」です。これを薬剤師の仕事に置き換えてみると、AIには患者さんの気持ちに寄り添ったサービスが提供しづらいということです。すなわち、服薬指導などの業務はAIでは出来ないということです。近年は、医療サービスや健康情報のバラエティが増えたこともあり、病院や薬局にはさまざまな医療ニーズを持った患者さんがいらっしゃいます。そのため、薬剤師として活躍し続けるためには、相手の気持ちに寄り添い的確に患者さんの要望に答えられることが重要です。
薬剤師の今後の役割は?生き残るために必要なこと
では、需要のある薬剤師として働き続けるにはどのようなスキルが必要になるのでしょうか。これからの薬剤師にもっとも必要とされるものはコミュニケーション能力です。患者さんの気持ちに寄り添い相手のニーズを的確に捉えることができれば、専門家としてさまざまな場面で求められる存在になることができるでしょう。日本の場合、人口の高齢化が進むに伴い、薬剤師に求められる役割が変わってきています。2025年には高齢者数が3,657万人となり、2055年には全人口に占める75歳以上の割合は25%を超えると予想されています。このような高齢者人口の大幅な増加を受け、国の方針としては誰もができるだけ住み慣れた地域で暮らし続けることができるように「地域包括ケアシステム」が提言されました。薬剤師も、地域の住民の生活を支える専門家として活躍が期待されています。平成28年4月には「かかりつけ薬剤師」制度が開始されました。「かかりつけ薬剤師」とは、薬の調剤や服薬指導に限らず、薬物治療や病気・介護に関することなどの知識や経験を持ち、患者さんの生活のニーズに幅広く応えることができる薬剤師のことを指します。生活習慣病をはじめ、高齢になるほど病気を患ったり病態が複雑化したりします。そうなると、薬の種類が増えるだけではなく、日常生活の問題も増えていくでしょう。そのため、薬剤師も身近にいる医療従事者として、日常生活のさまざまな問題を把握しながら患者さんの気持ちに寄り添うことが必要になるのです。例えば、調剤薬局では薬の重複や飲み合わせを確認しながら日常生活の悩みを傾聴することができれば、患者さんの健康不安を緩和することができるかもしれません。あるいは、医師や看護師・ケアマネジャーなどの他職種とスムーズに連携することができれば、在宅でのチーム医療に携わることができる薬剤師として現場で重宝されることでしょう。また、薬剤師のなかには患者さんとのコミュニケーションを苦手とする方も多いです。というのも、薬学部では専門性の高い医療知識を学ぶことはあっても、コミュニケーションを学べるカリキュラムはほとんどないに等しいからです。ですから、コミュニケーション能力を高めることができれば他の薬剤師との差別化を図ることにもつながり、活躍できる機会を増やすことができるでしょう。
まとめ
薬剤師の職種の将来性について説明しました。
薬剤師は、専門職としての需要を考慮しながら、今後の働き方を考えていくことが大切です。薬剤師の有資格者数は年々増加しており、地域や職場によっては供給過多の状態になってきつつあります。また近年では、調剤業務を中心にAIが薬剤師の役割を代行できるようになったことで、業務内容によっては仕事の幅が狭まってしまう可能性も指摘されています。一方で高齢化が進み、健康や日常生活についてさまざまなニーズが持たれるようになったことで、薬剤師にもコミュニケーション能力が求められるようになりました。コミュニケーション能力を鍛えることで、他の薬剤師と差別化をはかることも出来ます。今後も薬剤師として、医療現場で活躍できる専門家で居続けるためにも、社会のニーズを把握しながらスキルアップしていきましょう。
キャリアアドバイザー 笹野
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